武市和希(Vo/G/Key)、井上雄斗(G/Cho)、坂東志洋(Dr)による京都発のmol-74(モルカルマイナスナナジュウヨン)。 誰もが聴いた瞬間に耳を奪われるであろう、武市の透き通るようなファルセット・ヴォイスを軸に、美しく繊細なサウンド・スケープを描くバンドである。その楽曲はSigur RosやMewといった北欧のバンドにも通じる、冷たく透明でありながら、心の奥底に暖かな火を灯すようなものばかりだ。 『まるで幻の月をみていたような』は、流行りのダンサブルな4つ打ちではなく、心臓の鼓動のようなプリミティヴなバスドラが牽引する実質的なオープニング曲“フローイング"で力強く幕を開ける。その後は、ドラマチックなピアノの旋律が印象的な“バースデイ"や、アコギによる弾き語りの“透過"を経て、アルバム終盤では壮麗なストリングスのアレンジも加わるなど、幅広い曲調に挑んだ意欲作となっている。 本作についてメンバーは「昨日見た夢を上手く思い出せないように、僕らは大切なことを忘れていく」というテーマを掲げている。 昨日見た夢の全てを思い出すことが難しいように、忘れたいことも、忘れたくないことも、いつかは思い出せなくなってしまう。 その儚さと、それでも生きていくという希望を、水面に揺れる幻の月に投影するという映像的な発想は、まさにこのバンドならではのものだと言っていいだろう。 音楽がインスタントなものとして扱われ、夢と同じように次から次へと忘れ去られて行く中、mol-74はいつのまにか心に住み着いて、離れることができなくなるような存在だ。
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